空間の<広がり>ではなく<奥行き>を、いかに平面作品の中に実現するか。この絵画史の重要課題に、幾何学的な単純な形象を用いて取り組み、模索し続ける作家の個展である。
鉤(かぎ)裂き状が重層して交錯する画面は、それだけで空間の厚みを感じさせるが、ルネサンス期に基礎づけられた西洋の遠近法によるならぱ、奥の方は、より細く、手前の方は、より太く描かれなければならない。ところが、それらが均一と見えるため、西洋よりも東洋の伝統に基づく非合理性が浮かび上がってくる。
作者は1935年、名古屋市生まれ。同市立工芸高校卒。商業デザイナーを経て、69年、名古屋造形芸術短大講師となり、現在は教授。70年に解散した日本宣伝美術会の会員でもあった。
今回は、約10年に及ぶシリーズ「Division(分割)」の中で、初めてステンレス板を使用した意欲的な作品であり、一時期見られた豊富な色彩も、迷いをふっ切ったように、白い形象と黒い背景に統一している。いわば、深層に肉薄しようとする表面で、その意味からして、今回は成功していると言えよう。新作13点の展示。
(10日まで。名古屋市中区栄3丁目、丸栄スカイル南)
中部読売新聞 1987年7月7日掲載 筆者 石井洋次